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京都地方裁判所 昭和54年(ワ)67号 判決

原告

宮崎重政

被告

青山運送有限会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し四三五万〇三二五円および内金三九五万〇三二五円につき昭和五三年五月二三日から、内金四〇万円につき本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告ら、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し各自九九八万八二二〇円および内金八九〇万八二二〇円につき昭和五三年五月二三日から内金一〇八万円につき本判決言渡の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  本件事故の発生

1 日時 昭和五三年五月二二日午後一一時四〇分ころ

2 場所 京都市伏見区深草小久保町四九番地先路上

3 態様 被告東運転の普通貨物自動車(以下被告車という)が停止中いきなり後退したため、折から進行してきた原告運転の自転車に被告車後部を衝突させ原告と同乗していた原告の妻を転倒させ負傷させたもの。

(二)  原告の受傷および治療経過ならびに後遺障害

1 傷害 頸椎捻挫、腰椎捻挫、右肩打撲。

2 入院 昭和五三年五月二三日から八月三〇日まで久野病院へ入院。

入院日数合計一〇〇日。

通院 昭和五三年八月三一日から一二月五日(症状固定日)まで通院(実治療日数四一日、通算九七日)。

3 後遺障害

症状固定、昭和五三年一二月五日。

頸椎三・四・五不安定椎。腰椎二・三に棘形成。大後頭神経根部、坐骨神経根部及び頸部後屈時の疼痛がそれぞれ著明。

右の通りの頑固な神経症状のため、激しい労作並びに起立して作業する労務は困難であり、理容師としての就労には著しい苦痛があり至難である。又この症状は長期に持続し、恢復の見込はない。自賠責等級一二級に該当する。

(三)  帰責事由

被告青山運送有限会社(以下被告会社という)は貨物運送業を営み、その使用人である被告東に加害車両を運転せしめて、その運行の用に供していたものであり、被告東も貨物自動車運転者として加害車両を運行の用に供していたものであるから、被告らは自動車損害賠償保障法第三条の責任があり、前記交通事故により原告に生じた損害を賠償する義務がある。

なお、被告東については後方を確認しないで被告車を後退させた過失があるから民法第七〇九条の不法行為責任も予備的に主張する。

(四)  損害

1 原告の治療費

金一五一万八七九〇円(但し、国民健康保険を一部利用。上記金額は原告負担分のみ。)

2 雑費

久野病院の入院日数一〇〇日。一日六〇〇円

合計金六万円。

3 休業損害

原告は理髪師として相当額の収入を得ていたが、本件事故のため、症状固定日まで勤務することが出来なかつた。又原告の収入は多額であつたが、とりあえず昭和五〇年賃金センサス、産業計男子労働者学歴計三五~三九歳の賃金収入をもとに休業損の請求をなす。

休業期間 昭和五三年五月二三日から同年一二月五日まで、一九七日間。

年間収入 金二七三万五九〇〇円。

右の一九七日分金一四七万六六三〇円。

4 後遺症に起因する労働能力低下による逸失利益

労働能力喪失率 一四%(労働基準局長通達による労働能力喪失率表による)。

年間収入右3の通り 二七三万五九〇〇円。

就労可能年数六七歳まで三二年。従つて、ライプニツツ係数一五・八〇二六を乗じた合計金六〇五万二八〇〇円。

5 慰謝料

(イ) 入・通院の慰謝料 金八〇万円。

(ロ) 後遺症慰謝料 金一五七万円

(ハ) 右(イ)(ロ)の合計 金二三七万円。

(五)  損害の合計及び弁済受領

1 第(四)項12345の損害合計は金一一四七万八二二〇円となる。

2 原告は損害保険会社より金一〇〇万円の支払いを受けたほか、後遺障害一二級の保険金として、金一五七万円の支払を受けた。

3 よつて、1より2を控除した残額は金八九〇万八二二〇円となる。

(六)  弁護士費用

原告は本訴を提起するために、本件訴訟代理人に委任せざるを得なかつた。よつて、弁護士費用として次の損害を蒙つた。

1 着手金 金三二万円。

2 報酬金 金七六万円。

3 合計額 金一〇八万円。

なお、京都弁護士会報酬等規程によると、訴額金一〇〇〇万円の着手金及び報酬は各々金七六万八〇〇〇円である。

(七)  結論

よつて、原告は被告らに対し金九九八万八二二〇円ならびに内金八九〇万八二二〇円については本件交通事故の翌日である昭和五三年五月二三日より、内金一〇八万円については本訴の判決言渡の翌日より、それぞれ完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因の認否

(一)  請求原因(一)の事実は否認する。被告車は停止していたものであり原告運転の自転車と接触したことはない、仮に接触したとすれば原告が右停車中の被告車に接触したものである。

(二)  同(二)の事実は知らない。

(三)  同(三)のうち被告会社が貨物運送業を営んでいるもので被告東の使用者であること、当時被告東が被告車に乗車していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同(四)の事実は否認する。

(五)  同(五)の事実は認める。

(六)  同(六)の事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生について

成立に争いのない甲第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三、証人韓ゆき子の証言および原告本人、被告本人東友和、被告代表者各尋問の結果を総合すると、被告東は東京方面へ向かうため本件事故現場の道路右側端に東向きの状態で駐車しておいた被告車の運転を開始したものであること、当時右道路の東方は下水道工事のため通行止となつており、また被告車の前後には被告車と同様の状態で駐車していた車両があつたため、被告東は一旦被告車を道路左側部分へ進出させた後、後退し西方の交差点で転回してから西方へ進行しようと考え、被告車を左斜め前方へ進行させて停止し、次いで後退を開始した直後被告車後部を叩く音が聞えたため直ちに停止したものであること、なお同被告は後退開始前にはサイドミラーにより原告らの姿を認めていたが、後退開始時には確認していなかつたこと、一方原告は自転車にその妻であつた訴外韓ゆき子を乗せて右道路を西方から東進中、前方に被告車が一旦前進した後停止したのを確認したがその左方を通過できるものと判断してそのまま進行を継続したところ突然被告車が後退して来て被告車の左後部が原告運転の自転車の前部に衝突し、その衝撃により原告の右肩部分が被告車後部に衝突し、またその妻は転倒するに至つたため、原告は直ちに左手で被告車の後部を叩いたところ被告車が停止したものであること、なお右事故を惹起した被告車は被告会社所有の登録番号京一一あ五四―二〇号の自動車であつたこと、の各事実を認めることができ、前掲の証拠中右認定に反する部分は措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

二  被告らの責任

被告会社が貨物運送業を営んでいるもので本件事故当時被告会社従業員である被告東が被告車に乗車していたことは当事者間に争いがなく、同被告が被告車を運転中本件事故を惹起したことは前記認定のとおりである。

右事実によれば被告らはいずれも自動車損害賠償保障法三条により原告が本件事故によつて受けた損害を賠償すべき義務がある。

三  原告の受傷および治療経過ならびに後遺障害

原告本人尋問の結果(第一回)により成立および原本の存在を認めることができる甲第一ないし第三号証によれば、原告が本件事故によつて受けた傷害および治療経過は原告主張のとおりであり、またその主張のとおりの後遺障害が存する旨の診断を受けたことが認められる。

四  損害

(一)  治療費 一五一万八七九〇円

原告本人尋問の結果により成立および原本の存在を認めることができる甲第四ないし第七号証によれば原告は本件受傷による治療費としてその主張の金額を要したことが認められる。

(二)  入院中雑費 六万円

入院中雑費としては右金額が相当である。

(三)  休業損害 一五五万四四一〇円

原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば原告は本件事故当時満三五歳で理容師として勤務し月額約二四万円の収入を得ていたこと、本件受傷のためその治療期間中稼働せず、その後勤務先をやめ、昭和五四年三月ころから理容店を開業したことが認められる。そして原告の受傷内容、治療状況等に照らすと後遺障害が固定したものと診断された昭和五三年一二月五日までは稼働し得なかつたものと認めるのが相当であるから、これによつてその間の休業損害を算出すると一五五万四四一〇円となる。

24万円×12カ月/365日×197日=155万4410円

(四)  後遺障害による逸失利益 一四三万七一二五円

前示の原告の後遺障害の内容、程度等に照らすと原告の労働能力喪失率は一四%であり、そのような状態は少くとも四年間継続するものと考えられるからホフマン式計算方法によりその間の逸失利益を算出すると一一〇万一一三九円となる。

24万円×12カ月×14/100×3.5643=143万7125円

(五)  慰藉料 一九五万円

前示の原告の受傷の部位、程度、治療経過、後遺障害その他諸般の事情を勘案すると原告の慰藉料としては一九五万円が相当である。

(六)  弁護士費用 四〇万円

本訴の難易、認容額その他の諸事情を考慮すると弁護士費用として原告が被告らに対し請求しうべき金額は四〇万円が相当である。

五  損害のてん補

原告が本件事故に関し自動車損害賠償責任保険金合計二五七万円を受領したことは自認するところである。

六  結論

以上の次第であるから、原告の被告に対する本訴請求は前示四の損害額(六九二万〇三二五円)から五のてん補を受けた金額を控除した四三五万〇三二五円と内金三九五万〇三二五円(弁護士費用を除くその余の金員)に対する遅滞の後である昭和五三年五月二三日から、内金四〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

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